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Personal Works

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永遠の野原―野原に記憶を預ける

 

「何かを忘れようとすればするほど、心に残るものだ。ある人曰く、何かを捨てなければならない時は、心に刻みつけよ*」

 

私はあまり過去のことを覚えていない。だから、記憶というものについて考えたことも、囚われたこともなかった。それが、母が亡くなって以来、母との記憶に悩まされることになった......

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私は彼女と長い夢をみる

 

2016年、私は布で花を造るアーティストの作品集制作の撮影を担当した。彼女は、広島 在住の友人でクリスチャン。作品集のテーマは「祈りを捧げる」というものだった。「祈 りとは対話。そして作品は祈りそのもの」と彼女は語り、私は彼女の揺るぎない言葉に感 動を覚えた。 当時、彼女は闘病していたが、いつも悠々として静かで、 彼女の中心に「祈 り」があると感じた私はその感動の手がかりを得たいと思い、彼女とゆかりのある長束修 道院(広島市)に通った ......

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Starting a New Journey

 

長い闘病の果てに母が亡くなり、その後、随分と旅をした。 海を巡る旅が多かったのは、母が生前海を見たいといっていたことが心に残っていたからだ。 海と空が繋がる遥か向こうを眺めていると母との記憶が蘇った。 母とはよく近くの野原を散歩した。健脚だった母、きっと海辺も楽しく歩いただろう。 今、母は死者となりこの世にいない。だがその存在はときに、生きていた時より重く深く心を占めることがある。 それは亡くなった母との関係を、もう新たにすることができないせいかもしれない......

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Oshichi

私はある人形館で魅惑的な八百屋お七の人形に出会った。

お七とは、恋人に会いたい一心で放火事件を起こし火刑に処された歴史的に有名な少女。残された恋人は僧となり一生涯、巡礼の旅をして過ごしたと言われている。私はこの江戸時代の史実に基づく物語に興味を持った。

人形を見つめていると、少女が残した恋人のその後の人生について深く心を痛めているように感じ、私は人形の思いを抱いて、恋人の巡礼の後をたどる旅に出ることにした......

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Be buried deep inside

どこの町にも何かしら、言い伝えや昔話が残っている。

昔そこに何があったのか大抵は跡形もなく知る人も少ないだろう。しかし、その場所を歩いてみると古い木立を揺らす風の音や、ふいに立ち上る土けむりや、陽だまりに揺らぐ影の中に、かすかに物語の気配を感じることがある。この地面の下には、かつてあったもの、起きたことが埋もれているからに違いなく、人も植物も動物も光や雨や雪や、自然のもののそうでないものも、すべては決して無くならず、埋もれ沈澱しているのだろう......

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Starting a New Story

ある日、隣町に奇妙な形の廃棄物工場を見つけて興味を覚え、撮影を始めた。この町には雑木林や畑の中に工場や倉庫が数多くあった。狭い道路を大型車が砂煙を上げてひっきりなしに走っていたが、人の気配は少なく、私は不思議と安らぎを覚えた。

この町を撮影し始めたのは、ちょうど両親の介護に追われている時だった。老いは誰にでも訪れるものだが、親の報われない最後に虚しさを感じていた。

撮影し始めてしばらくして父が亡くなった。 痩せて、枯れ葉がカサカサと落ちてゆくような最後だった......

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